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釧路地方裁判所帯広支部 昭和49年(ワ)128号 判決

原告 渡辺兵衛 ほか一名

被告 国

訴訟代理人 末永進 林茂保 小野耕造 出村恭彦 ほか三名

主文

原告らの請求は、いずれも棄却する。

訴訟費用は、原告らの負担とする。

事実

第一当事者の求めた裁判

一  請求の趣旨

1  別紙物件目録記載の各土地が、原告両名および被告の各三分の一の割合による共有であることを確認する。

2  右各土地につき、原告両名および被告は、裁判所が適当と認める方法により分割せよ。

3  訴訟費用は、被告の負担とする。

二  請求の趣旨に対する答弁

主文同旨

第二当事者の主張

一  請求の原因

1  別紙物件目録記載の各土地(以下、一括して本件係争地という。)は、もと訴外渡辺綱彦、同亡渡辺彦兵衛および原告渡辺嘉男の三名の共有であつた。

2  北海道知事は、自作農創設特別措置法の規定に基づいて昭和二四年一月二四日付買収令書をもつて、本件係争地の買収処分をなした。

3  その後、被告は、本件係争地のうち別紙物件目録番号1、3、4記載の三筆の土地については昭和二九年三月二七日付売買、その余の二七筆の土地については昭和三〇年九月三〇日付売買を原因とするそれぞれ所有権移転登記を経由した。

4  ところが、訴外渡辺綱彦、同亡渡辺彦兵衛および原告渡辺嘉男は、昭和二九年一月一六日右北海道知事のなした前記買収処分は、無効であるとして北海道知事を相手方として牧野買収処分無効確認請求訴訟を提起し、昭和四七年九月二二日最高裁判所において、右買収処分は訴外亡渡辺彦兵衛および原告渡辺嘉男に関しては無効であることを確認する旨の判決があり、右判決は同日確定した。

5  原告渡辺兵衛は、亡渡辺彦兵衛の孫であり、昭和四九年九月五日遺産の分割協議の結果、訴外亡渡辺彦兵衛の本件係争地についての権利を相続により承継した。

6  したがつて、原告両名は、被告とともに本件係争地をそれぞれ三分の一の割合によつて共有しているものであるが、被告は、本件係争地についての原告両名との共有関係を争い分割協議にも応じないので、原告らは、被告に対し、本件係争地が原告両名と被告の共有であることの確認を求めるとともに、本件係争地を裁判所において適当と認める方法により分割することを求める。

二  請求原因に対する認否

1  請求原因1ないし4の事実は、認める。

2  同5の事実のうち、原告渡辺兵衛が亡渡辺彦兵衛の孫であることは認め、その余の事実は、不知。

3  同6の主張は、争う。

三  抗弁

(取得時効)

1 北海道知事は、本件係争地を買収したのち、自作農創設特別措置法の規定に基づいて、別紙土地売渡経過一覧表(以下、一覧表という。)記載のとおり、昭和二六年三月二日に本件係争地のうち二〇筆の土地(一覧表番号1ないし10、14ないし23)を、同年一一月一日その余の一〇筆の土地を、それぞれ同一覧表被売渡人欄記載の者に対して売り渡し、右二〇筆の土地については同年七月四日、その余の一〇筆の土地については昭和二七年六月二三日それぞれ被売渡人らのための所有権保存登記がなされた。

2(一) 右被売渡人らのうち一覧表番号19記載の坂本元八をのぞくその余の者は、右売渡しを受けて後おそくとも右所有権保存登記がなされたころまでには、それぞれ売渡しを受けた土地が当然自己の所有であるものと信じてこれを牧野として使用し始め、右各土地の占有を開始した。

(二) 右被売渡人らのうち同一覧表番号19記載の坂本元八は、右売渡しを受けてのちおそくとも昭和二八年一二月ごろには売渡しを受けた右土地を訴外今駒義男に売り渡し、同人は当然、自己の所有であると信じて、そのころ直ちに同土地を採草、放牧の用に供し、右土地の占有を開始した。

3 被告は、右一覧表記載のとおり、番号19記載の土地を昭和三〇年九月三〇日に右今駒から、同表番号1、3、4記載の各土地を昭和二九年三月二七日に、その余の本件各土地を昭和三〇年九月三〇日にそれぞれ同一覧表被売渡人欄記載の者から買い受け、いずれも右同日所有権移転登記を経由した。

4 被告は、右買受後現在に至るまで、本件土地を陸上自衛隊の演習場として使用占有している。

5 よつて、被告は、本件土地のうち右一覧表番号1ないし10、14ないし18、20ないし23の各土地については、前主の占有開始時である昭和二六年七月四日から一〇年が経過した昭和三六年七月四日に、同一覧表番号19の土地については、前主の占有開始時である昭和二九年一月一日から一〇年が経過した昭和三九年一月一日に(仮に中間占有者である右今駒の占有に悪意有過失の瑕疵があつたとしても右占有開始時から二〇年が経過した昭和四九年一月一日に)、その余の本件各土地については、前主の占有開始時である昭和二七年六月二三日から一〇年が経過した昭和三七年六月二三日に、それぞれ取得時効が完成したので、右時効を援用する。

6 仮に、右主張が認められないとしても、北海道知事は、昭和二四年二月四日(買収令書を訴外渡辺綱彦に交付した日)に本件土地について牧野買収処分をして以降、被告の機関として本件土地を管理占有し、その後、前記のとおりこれらを被売渡人らに対して売渡処分をなし、再び被告の機関である防衛庁札幌建設部旭川支部長において本件土地を自衛隊の演習用地として右被売渡人らから買受け、その用に供しているのであるから、被告の機関においてその占有の始めに過失があつたとしても、右買収処分による占有開始から二〇年が経過した昭和四四年二月三日には、二〇年の取得時効が完成したので、右時効を援用する。

四  抗弁に対する認否

1  抗弁1の事実は、知らない。

2  同2(一)(二)の各事実は否認する。

3  同3の事実のうち、本件土地につき被告主張の所有権移転登記があることは、認め、その余の事実は、不知。

4  同4の事実のうち、被告が昭和三〇年以降現在に至るまで本件土地を自衛隊の演習地として使用占有していることは、認め、その余の事実は、不知。

5  同5、6の主張は、いずれも争う。

五  再抗弁

(時効中断)

1 原告渡辺嘉男および亡渡辺彦兵衛らは、昭和二九年一月一六日北海道知事による本件土地の買収処分を無効として、北海道知事を相手にして、札幌地方裁判所に牧野買収処分無効確認訴訟を提起した。この訴訟において、被告は、北海道知事の代理人として訟務担当の検事を派遣して同知事を全面的に支援したのであつて、右無効確認訴訟の実質上の相手方は被告であつたということができるのであるから、右訴訟の提起により本件土地につき被売渡人および被告のために進行する取得時効は中断された。

(他主、悪意の占有)

2 被告は、原告渡辺嘉男および亡渡辺彦兵衛らが、本件係争地の買収処分無効確認訴訟を提起し、買収処分の無効を主張しているのを知りながら、本件土地の占有を開始したものであるから、その占有は、所有の意思を欠き、かつまた、悪意の占有である。

(権利の濫用)

3 被告は、右牧野買収処分無効確認訴訟につき全面的に北海道知事を支援し、昭和二九年の訴訟提起以来一八年余りの長期間にわたりこれを争う一方、その間本件土地を自らの違法な処分に基づいて占有し続けてきたものであり、右買収処分無効確認訴訟において敗訴し、本件土地の返還を求められるや、今度は、その占有を根拠として取得時効を援用するのであるから、右取得時効の主張は、権利の濫用であつて許されない。

六  再抗弁に対する認否

1  再抗弁1の事実のうち前段の事実は認め、後段の主張は、争う。買収処分無効確認訴訟は、行政処分である買収処分の有効無効を争うことを直接の目的とするのであつて、私権の存在そのものを主張するものではないから、民法第一四七条第一号の「請求」に該当せず、したがつて、原告主張の右訴訟の提起は、時効中断の事由とはならない。

2  同2の主張は、争う。

3  同3の主張は、争う。

第三証拠関係〈省略〉

理由

一  請求の原因1ないし4の各事実および原告渡辺兵衛が、亡渡辺彦兵衛の孫であることは、当事者間に争いがなく、また、〈証拠省略〉によれば、原告渡辺兵衛が、昭和四九年九月五日彦兵衛の遺産の分割協議に基づいて亡彦兵衛の本件係争地についての共有持分を相続承継したことが認められ、これに反する証拠はない。

(取得時効)

二  そこで、被告の時効取得の抗弁について判断することにする。

1  (自作農創設特別措置法による売渡)

〈証拠省略〉ならびに弁論の全趣旨を総合すると、つぎの事実が認められる。

本件係争地は、もと旧鹿追村字ウリマク二一九番原野三八町一反四畝八歩および二二〇番の一原野七九町八反八畝一〇歩の二筆であり、渡辺綱彦、渡辺彦兵衛および原告渡辺嘉男の父徳太郎の共有地であつたが、同人らは、すでに戦前から訴外岡本新兵衛を管理人として開墾にあたらせ、旧二二〇番の土地の一部を畑地として麦類を耕作させるほか、放牧、採草の作業を行なわせていたことがある。

ところで、北海道知事は、昭和二四年一月二四日発行の買収令書によつて自作農創設特別措置法第四二条の二の規定に基づいて前記旧二一九番および旧二二〇番の一の土地を牧野として買収し(買収処分のあつたことは、当事者間に争いがない。)、本件係争地である別紙(二)物件目録記載の三〇筆の土地に分割したうえ、自作農創設特別措置法の規定に基づいて別紙(一)土地売渡経過一覧表(以下、単に一覧表という。)番号1ないし10、14ないし23記載の各土地については、昭和二六年三月二日にそれぞれ一覧表被売渡人欄記載の農家に売り渡し、同年七月四日に右被売渡人らのための所有権保存登記がなされ、また、一覧表番号11ないし13、24ないし30記載の各土地については、昭和二六年一一月一日ころそれぞれ一覧表被売渡人欄記載の者に売渡しがなされ、昭和二七年六月二三日に右被売渡人らのための所有権保存登記がなされた。

以上の事実が認められ、右認定を覆えすに足りる証拠はない。

2  (被売渡人らの占有開始の時期)

〈証拠省略〉によれば、本件係争地のほぼ中程をウリマク川が南北に貫流しており、その両側は傾斜地ではあるが、本件係争地一帯は、概ね、平坦地であり、昭和二九年当時は、ドロノキ、ハンノキ、白樺などの雑木が散在するのみの雑草地であつて採草地としては、好適地であつたこと、また、前記ウリマク川寄りの傾斜面も、当時は、放牧馬などにとつては、障害となるものでなく、その約一メートル幅の流れは、格好の水飲み場であつたこと、本件係争地のうち、物件目録番号1、2、19、20記載の各土地の南側には、東西にのびる土塁が築かれ、その上部には、有刺鉄線を張つた柵が設置されていること、同目録番号1、2記載の各土地の南側に在る土塁および柵は、前記ウリマク川東岸の傾斜面に沿つて川の水辺付近まで続いており、これらは、かつて放牧馬などの脱走を防ぎ、かつ水場に誘導するための施設の名残りであることなどが認められ、右認定を左右するに足りる証拠はない。

(一)  (物件目録番号1ないし18、20、21、24ないし27、30記載の各土地について)

〈証拠省略〉によれば、本件係争地は、物件目録番号19記載の土地をのぞき、同一部落の住民が、共同の放牧地、および採草地として使用する目的で売渡しを受けたものであるが、各部落の代表者であつた台蔵秀雄、辻本四郎および菅野喜平らは、昭和二六年六月ころから、本件係争地のうち物件目録番号1ないし18、20、21、24ないし27、30記載の各土地をまとめた地域内に馬を放牧し、その南側部分を採草地としたうえ、右範囲の土地の周囲に有刺鉄線を張つた柵をめぐらしたが、その柵設置の作業はおそくとも、本件係争地のすべての土地について被売渡人らの所有権保存登記がすんだ昭和二七年六月二三日ころには完了し、放牧馬の脱走を防ぐ施設が完成したものと認められ、前叙の土塁の上に現存する杭および有刺鉄線は、その当時の柵の一部であろうと推測される。

したがつて、物件目録番号1ないし18、20、21、24ないし27、30記載の土地については、被売渡人らである台蔵秀雄、菅野喜平らがこれらの土地を一体として、おそくとも昭和二七年六月二三日ころには、共同の馬の放牧地および採草地として使用しはじめ、その占有を開始したものと認められる。

〈証拠省略〉のうち、右認定に反する部分は、〈証拠省略〉の結果に照らして容易に措信できず、他に右認定を左右するに足りる証拠はない。

(二)  (物件目録番号22、23、28、29記載の各土地について)

〈証拠省略〉によると、物件目録番号22、23、28、29記載の各土地は、一体として、西側は観光道路に接し、南は一部、前叙の構築された土塁跡に面しており、概ね平坦であつて馬の放牧、採草地としては格好な地であることが、認められ、この事実と〈証拠省略〉を総合すると、これらの土地の共同の被売渡人である角田勝雄、渡辺善五郎らは、おそくともこれらの土地について被売渡人名義の所有権保存登記がすんだ昭和二七年六月二三日ころには、共同の馬の放牧地、採草地としてこれらの土地の利用をはじめその占有を開始したものと認められ、〈証拠省略〉のうち、右認定に反する部分は、〈証拠省略〉に照らし、たやすく信用できず、他に右認定を覆えすに足りる証拠はない。

(三)  (物件目録番号19記載の土地について)

(1) 〈証拠省略〉ならびに弁論の全趣旨を総合すると、坂本元八は、昭和二六年三月二日自作農創設特別措置法の規定に基づいて物件目録番号19記載の土地を放牧採草地の用に供するものとして売渡を受けたのであるが、この土地は、本件係争地のうち南側部分にある平坦地であつて、東および西の隣接地と地勢上顕著な差はみられず、本件係争地の内でも放牧や採草には最も適したところであつたものと認められ、前記認定のとおり東および西の隣接地では、おそくとも昭和二七年六月ころから馬の放牧地、採草地として使用されていたこと、さらに前掲証拠によるとこの土地が前叙の放牧馬の脱走を防ぐ施設と思われる有刺鉄線による柵の内側に位置すること、坂本元八は、昭和二七年当時、農業を営んでおり、部落の責任者をも勤めていたことなど認められ、坂本元八は少くとも農耕用の馬を保有していたことが容易に推測されることなどを考え合わせると、被売渡人坂本元八は、昭和二六年三月二日この土地の売渡しを受けたのち、おそくとも昭和二七年六月二三日ころには、この土地の占有を開始したものと認めるのが相当である。

〈証拠省略〉のうち、右認定に反する部分は、前叙の当時の隣接地の使用状況および〈証拠省略〉に照らし容易に信用できず、他に右認定を覆えすに足りる証拠はない。

(2) ところで、〈証拠省略〉および弁論の全趣旨を総合すると、坂本元八は、昭和二八年一二月ころ、物件目録19記載の土地を同じ部落で馬を保有して農業をやつていた訴外今駒義男に売り渡し、右今駒は、買受後、直ちにこの土地の引渡しをうけ、その後、馬の放牧地として使用占有していたことが推認でき、これを覆えすに足りる証拠はない。

そうすると、本件係争地は、ほぼ一体として、被売渡人らおよび右今駒ら共同の馬の放牧地および採草地の用に供されてきたものであつて、おそくとも昭和二七年六月二三日ころには、自作農創設特別措置法に基づいて売渡しを受けた前記被売渡人らによつて占有が開始されたものとみるべきである。

したがつて右の被売渡人らは、本件係争地について、所有の意思をもつて善意、平穏かつ公然に占有をはじめたものと推定され、また、同人らは、自作農創設特別措置法の規定に基づいて牧野の売渡しを受けたものであるから、その占有のはじめにあたり、右売渡処分の前提となる買収処分につきその手続に瑕疵がないことまで確かめなくても、特段の事情のないかぎり自己が所有者であると信じるについて過失があつたものとはいえない。

本件においては、右被売渡人らが、その占有のはじめに悪意または過失があつたことを推認しうる特段の事情は認められない。

また、訴外今駒義男は、昭和二八年一二月ころ、当初の被売渡人坂本元八から物件目録番号19記載の土地を買い受け、馬の放牧地として直ちにその占有を承継したことは、前叙のとおりであるが、今駒においても、その占有を承継し、自ら占有をはじめるにあたつてこの土地についての買収処分が無効または無効となるおそれのあることを知りあるいは容易に知りえたことを認めるに足りる証拠がない本件においては、同人がこの土地が自己の所有であると信ずるにつき過失がなかつたものと認められる。

なお、被告は、本件係争地について買収処分をなした北海道知事は、昭和二四年二月四日以降被告の機関として本件係争地を占有していたと主張するが、本件全証拠によるも、取得時効の基礎に値する具体的な占有開始の事実を認めることはできない。

3  (国の買受および占有の開始)

〈証拠省略〉によれば、被告は、本件係争地を含む一帯を陸上自衛隊の演習場として使用するため、昭和二九年三月二七日、本件係争地のうち、南東角に位置する物件目録番号1、3、4記載の各土地を買い受け、さらに、昭和三〇年九月三〇日にはその余の本件係争地をそれぞれ当初の被売渡人らまたはその相続人ら(ただし、物件目録番号19記載の土地については、今駒義男から)から買い受け、それぞれの買受日に所有権移転登記手続を経由し、直ちに当時の帯広駐屯地業務部長がその引渡しを受け、直ちに、陸上自衛隊の演習場としての、諸施設の建設、境界の確認、無断耕作、放牧の監視などを行なうようになり、以後現在に至るまで本件係争地を陸上自衛隊の演習場として使用占有している(占有の瑕疵の点をのぞき被告が、昭和三〇年以降現在まで占有継続していることは、当事者間に争いがない。)ことが認められ、〈証拠省略〉のうち、右認定に反する供述は、たやすく信用できず、他に右認定を左右するに足りる証拠はない。

4  (時効中断などの再抗弁)

(一)  原告渡辺嘉男、亡渡辺彦兵衛らが、昭和二九年一月一六日北海道知事による本件係争地の買収処分を無効として北海道知事を相手にして牧野買収処分無効確認訴訟を提起したことは、当事者間に争いがなく、原告らは、右の買収処分無効確認訴訟の提起によつて、時効中断の効果を生じたものと主張するが、行政庁たる知事を相手方とした右の買収処分無効確認訴訟は、本件係争地についてすでに占有を開始している前記被売渡人らを相手方として私権に基づき提起された訴訟ではなく、また、目的物件を一定期間継続して占有することによつて、これを権利関係を高めようとする時効取得の趣旨からしても、行政庁たる北海道知事を相手とした右買収処分無効確認訴訟の提起によつて、本件係争地につき進行を開始していた被売渡人ら(物件目録番号19記載の土地については、今駒義男も)の時効が中断されるものではない。

原告のこの点の再抗弁は採用できない。

(二)  また、原告らは、被告が、本件係争地を被売渡人らなどから買い受けるにあたつて、すでに本件係争地に関し前記買収処分無効確認訴訟が提起されている事実を知つているのであるから、被告が、その前主である被売渡人らなどから本件係争地の占有を承継し、占有を開始したとしても、被告には、所有の意思がなく、また悪意の占有であると主張するので、この点について判断する。

本件係争地に関する買収処分無効確認訴訟が提起されたのは、昭和二九年一月一六日であることは、当事者間に争いがなく、また、被告が、被売渡人らなどから本件係争地のうち物件目録番号1、3、4記載の各土地を買い受け、占有を承継したのは、昭和二九年三月二七日であり、その余の部分については、昭和三〇年九月三〇日であることは、前記認定のとおりである。

〈証拠省略〉によれば、被告は、被売渡人らなどから、本件係争地を買い受けたものの、前記買収処分無効確認訴訟において、買収処分の無効が確定すると、被売渡人らは、占有の当初に遡つて原告渡辺嘉男、亡渡辺彦兵衛ら他入の土地を占有してきたことになるので、その売買代金をいずれに支払うべきか苦慮した結果、旧鹿追村に対し前記買収処分無効確認訴訟の結果の確定を待つて支払うよう指示して現実の売買代金の支払を保留させたことが認められ、これに反する証拠はない。

右各認定事実および〈証拠省略〉によると、被告は、本件係争地を被売渡人らから買い受け、その対価を出損しているなどその占有取得の原因たる外形的客観的事実からしても所有の意思があつたものといえるが、本件係争地の占有の承継にあたつて前主たる被売渡人らに占有を正当とする本権たる所有権があることになるか否かについては懸念をもつていたことは、明らかであるから、昭和三〇年九月三〇日(物件目録番号1、3、4記載の土地については昭和二九年三月二七日)からの本件係争地についての被告の占有は、悪意の占有といわざるをえない。

(三)  さらに、原告らは、被告が前主である被売渡人らなどの占有を併わせ主張して本件係争地について取得時効を援用することは、権利の濫用であり許されないと主張するが、本来、取得時効の制度は、一定期間占有を継続したという事実がある場合には、その既成の事実の故に、占有者に目的物に対する物権その他の財産権の帰属を認めて保護するものであるから、前主の占有を併わせて、二〇年間占有継続があるかぎりたとえ、悪意の占有者であつても、時効の援用が許されないものでないから、原告らの右の主張は、採用できない。

ところで、被告が、前主の善意、無過失の占有のほかに、承継後の自己の悪意の占有を併わせ主張する場合には、全体として暇癌ある占有となるものと解するのが相当であるから、被告の善意を前提とする一〇年間の取得時効の主張は、肯認できない。〔編注:本判示部分については、最高裁昭和五三年三月六日第二小法廷判決において、不動産の占有主体に変更があつて承継された二個以上の占有が併せて主張された場合には民法一六二条二項にいう占有者の善意・無過失はその主張にかかる最初の占有者につきその占有開始の時点において判定すれば足りる旨の判示がされているので、訟務月報二四巻二号三〇八ページを参照されたい。〕

右の認定事実、説示によれば、本件係争地は、被売渡人らが昭和二七年六月二三日ころ、その占有を開始して以来、二〇年となる昭和四七年六月二二日の経過をもつて被告が本件係争地の所有権を時効取得し、これにより原始的に本件係争地の単独所有者となつたものというべきである。

したがつて、被告の抗弁は、理由がある。

三  以上のとおりであるから、原告らの本訴請求のうち、本件係争地につき各三分の一の割合による所有権確認を求める請求は、理由がなく、また、これを前提とする分割請求については、その資格を欠くものとして、いずれも、失当であるから、原告らの請求をいずれも棄却することとし、訴訟費用の負担については、民事訴訟法第八九条、第九三条を適用して主文のとおり判決する。

(裁判官 舟橋定之 手島徹 鈴木輝雄)

別紙(一) 土地売渡経過一覧表〈省略〉

別紙(二) 物件目録〈省略〉

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